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○兄から相続放棄の念書を取られてしまった

「嫁に出た身」とはいっても…

父が亡くなったのは私が結婚して十ヵ月後のことでした。父の遺産は自宅の土地200坪と建物、他にも土地が一筆あり、そこに建てた借家と、いくばくかの預貯金でした。家には兄夫婦が母と一緒に暮らしていました。私は結婚する時に、十分な嫁入り支度をしてもらい、持参金を当時(昭和四九年)のお金で100万円もらっていたし、嫁に出たら実家の財産とは関係ないものと思っていましたから、父の遺産について考えたこともありませんでした。

 

平成3年に母が高血圧で倒れて入院。兄嫁は、数年前から勤めに出ていたので、病院へはほとんど顔を見せることもなく、結局、私が病院に通って母の世話をしました。兄も仕事が忙しいのか、母の見舞いにもたまにしか来ず、そのことをすまながっている風でもありませんでした。また、入院する前から、兄夫婦、特に兄嫁と母はうまく行っていなかったようですから、兄嫁も顔を出したくなかったのでしょう。母の話によれば、年寄りと若い者とでは食べるものが違うからといって食事も別々だし、年よりは何か汚いものでもあるかのような扱いを受けていたとのことで、私も母を大切にしてくれない兄嫁に腹をたてていました。

 

入院して9ヶ月ほど経ったころ、母の容態が急変し、結局そのまま病院で息をひきとりました。私はその1週間ほど前から病院に泊り込んで世話をしていましたが、兄は仕事の都合がつかず死に目にも間に合わなかったのです。

 

そして、母の49日も過ぎない時のことです。兄が私の家にやってきて、何か書類を出して、これに判をついてくれと言います。見ると、母の遺産を兄がすべて相続するという遺産分割協議書でした。

 

私がためらっていると、父が死亡した時に「母親の時も一切相続はしない」という念書を私が書いていることを盾に判をつくように迫りました。

 

父が死亡した時の記憶をたどりました。兄は私より七歳も上で、小さいころから兄の言うことはよくきいていましたし、母から頼まれていたこともあり、「父の遺産については美智子はまったく相続しない。土地は母が法定相続分の3分の1、兄が3分の2ずつ」と言う遺産分割の書類か何かに、印鑑を押させられた記憶があります。また、その時、「母親の時も一切相続しない」という書面に、サインして印鑑を押していたのです。私は嫁に出た身なのだからと深く考えずに印鑑を押したのでしょう。

 

今になって思えば、母の病気、その間の兄夫婦の態度など考えると、うっかり判を押してしまったことが悔やまれてなりません。昔と比べると土地は値上がりし、母の自宅の土地は坪200万円はくだらないといわれています。兄はその3分の1を駐車場にして収入を得ていますし、借家を建てていた土地はアパートに建てかえて、これもかなりの収入になっています。母親の持ち分は3分の1ですが、遺産の額は億以上にもなります。しかも、母が入院してから看病したのはこの私なんですから。

 

いくら妹だからといっても、私のことをあまりにもないがしろにしています。このままでは兄に対して私の気持ちがおさまりません。何とかならないものでしょうか。

 

●解説●

相続放棄が効力をもつ場合

相続放棄は、被相続人が死亡した後に行うものです。しかも、家庭裁判所に相続放棄の申述の手続きをしなければ効力が生じないのです。したがって、母親の生きている時に署名押印した「母親の時も相続しない」という念書は相続放棄として効力は生じません。

 

少なくとも、法定相続分はもらいたいという主張はできるはずです。

 

主張すべきは主張しましょう。

 

なお、大人が署名押印すると、わからずにしてしまったなどという言い訳は通用しないことが多いもの。書面には軽率に署名押印をしないよう注意してください。

 

 

果実(賃料)

母親の死後、遺産分割の協議が合意できるまでの間(家庭裁判所で遺産分割の調停成立時までの間、調停が成立せず審判に移行し、審判がなされる場合は確定するまでの間などとなります。)母親所有不動産から賃料が発生している場合、これを果実といいます。

果実は法定相続分にしたがって各法定相続人が取得するという最高裁判例があります。

お兄さんが賃料を独り占めしている場合、この女性は兄に対して、自分の法定相続分に相当する賃料について不当利得返還請求することができます。