北村法律事務所 
052-541-8111

○女性たちの反乱、長男頭抱える

女性たちの反乱

父は5月23日に死亡しました。初七日に、兄が私を含む妹3人を集め、「これに印を押してくれ」と、それが当然だと言わんばかりに切り出しました。

その書面には、「私は被相続人から既に相続分を超える財産の贈与を受けており、相続分の存しないことを証明します」と書いてあります。私たち姉妹は父から多額の贈与を受けたこともありませんし、兄の態度があまりにも不遜だったため、「ちょっとよくわからないし」「相談してみないと」と口を濁し、早々に帰ってきました。

翌々日妹たち2人は私の家に集まりました。「そりゃ、確かにお兄さんは後継ぎだし、お父さんやお母さんの世話もしてきている。でも、お母さんはお義姉さんが冷たくすると言って泣いて電話してくるわ」「それに、お兄さんはお父さんの興した会社の後を継いでずいぶん裕福な暮らしをしているのに、当然のようにお父さんの遺産を全部取ろうなんて、ひどすぎるんじゃない。会社の株も大分生前贈与をしてもらっているらしいし……」「女だからといって、財産ももらえないなんておかしい。今はプチバブルで地価も上がっているけれど、うちのような小企業は苦しいままだし、少しでもお金が入ればどんなにかありがたいわ」

「女性も相続の権利を主張する時代よ!」

など、3人は言い始めると止めどがありません。

ところで、昨日印を押してくれと言われた書面はなんだったのでしょうか。妹が、弁護士に教えてもらったと前置きして言うには、これは便法で、相続分を超える財産の贈与を受けていない場合でも、この書面に署名押印すると、自分はなにも相続しないという遺産分割協議をしたことと同じになるとのことでした。

「贈与を受けましたというものにサインをしたら、贈与税がかかってくるんじゃない?」と妹が言い出し、ともかく、この書面には署名押印しない、法定相続分どおりもらうということで意見は一致しました。

 

(長男の声)

私は長男です。親父は10年前に社長を退き、私は会社の後を継ぎました。親父とおふくろとも同居して、面倒を見てきました。女房も頑固な親父によく仕えてくれたと思います。これからも、おふくろの世話、法事などもしていかなければなりません。当然、私が遺産の大部分を相続して斉藤家を継いでいくべきだと思いませんか。もちろん、印付き料として、妹たちには300万円ずつやろうと思っていたのです。それなのに妹たちは法定相続分どおり7000万円ずつよこせと言ってきて……。

7000万ずつなんてべらぼうです。「親父の遺産は自宅の土地建物(300坪)と1億円あまりの預金だけだ。どこから7000万円なんて出てくるんだ!」私はカーッとして怒鳴ってしまいました。妹たちは顔色も変えず、「お兄さん、会社の土地をお忘れではありませんか」と言います。「会社の土地は会社のもので、親父の遺産ではないことぐらい知っているだろう」と言い返すと、「自社株に影響するんですよ。工場の敷地は約2000坪。買ったときよりずいぶん上がっているんでしょう。会社名義の土地が上がれば、自社株の評価も上がります」

次女も勢いをえて、「あんまりわけのわからないことを言うなら、お兄さんが生前贈与してもらった自社株や土地も問題にして、私たちは特別受益の持戻しを主張するわ」とまで言います。私は血圧が上がり胸がトクトクしてきて、「おまえらだって、十分な嫁入り支度をしてもらっているじゃないか」と反論するのが精一杯でした。

また、妹たちは今まで盆暮と彼岸くらいしか家へ来なかったのに、親父がなくなってからは、足繁く、離れのおふくろのところへ来るようになったのです。女房は「お義母さん、悪知恵をつけられているに違いないわ。きっと、『お父さんが亡くなったら、年老いた女1人なんて弱いものよ。財産をきちんと相続したほうがいい』とか『お嫁さんより実の娘よ。いざとなったら私たちがお母さんの面倒を見るわ』と言っているのよ。妹さんたちが離れへ来るのを拒否できないかしら」とやきもきしていました。でも、実の娘が母親を訪ねてくることを拒否しようがありません。

手をこまねいているうちに、とうとう、おふくろが裏切ったのです。「会社も順調にいっているようだし、娘たちにはそれなりのものをあげて欲しい。私も法定相続分の2分の1は相続しますよ」と、妹たちと同じ事を言い始めました。ショックでした。この先どうなるかと思うと、夜も眠れません。弁護士さんに相談することをようやく決心しました。

●解説●

長男も頭の切り替えが必要な時代!

この相続争いは、妹さんたちに分がありますね。長男には2つの弱点があります。

(1)1つは、下手をすると社長の地位を失いかねないと言うこと。

(2)2つ目は、お母さんが亡くなった時、また争いが起こりかねないと言うことです。

 

(1)父上は遺言を残していかれなかったので、長男の法定相続分はたった8分の1しかありません。父上の所有していた自社株(長男が代表取締役をしている会社で、非上場株式)を法定相続分どおり分割すると、長男とその家族の分は、生前贈与分を含めても42%しかありませんでした。お母さんと妹さんたちの法定相続分は合計8分の7あり、自社株全体の47%にもなります。

長男は従業員や得意先の所有している自社株を買い取って過半数まで所有しておかないと、社長の地位を失いかねません。株式会社では株主総会で3人以上の取締役を選任しますが、これは多数決です。つまり、自社株の過半数を所有するものが、自分の意にかなった取締役を選任できるわけです。そして、取締役会で代表取締役を選任します。したがって、お母さんと妹さんたちが自社株の過半数を取得し、長男を取締役に選任せず他の人を選任してしまったら、長男は代表取締役社長の地位を失ってしまうのです。つい見落としがちな「自社株」には要注意です。

 

(2)2つ目のお母さんの件ですが、このケースは相続税の節約という意味からもお母さんに2分の1を相続してもらうしかありません。配偶者は法定相続分以内を相続する場合、相続税がかからないからです。将来2度目の争いも頭が痛いですね。「長男だからほとんどを相続できる」という考えを捨ててもらって、法定相続分は8分の1しかないけれど、両親の世話をしてきたし、今後も母の世話はしていくから、また、会社もやっていかねばならないから、妹さんたちに譲歩して欲しいと下手に出るしかないでしょう。日本の長男は、頭の切り替えが必要になってきましたね。