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兄弟間の相続トラブル

兄弟間の相続トラブル

 

父は6月2日息をひきとった。

父の葬式は、家族葬で行った。子ども3名とその配偶者、父の兄弟など、親族が参加しただけであった。

母は5年前に亡くなっている。

相続人は、長男太郎(50歳)、二男次郎(47歳)、長女和子(40歳)の3名。

父の遺産は、自宅の土地約100坪と建物、もう一つの土地60坪(駐車場にしている)と預貯金であった。生命保険金もある。

父の遺言は、探しても見つからなかった。

 

四十九日に兄弟3名とそれぞれの配偶者が実家に集まった。

長男太郎が口火を切った。

太郎

「自分は長男だから、この実家を相続させてもらう。次郎は、駐車場にしている60坪の土地をもらったらどうか。和子は、生命保険金の受取人になっていて、それが1500万円もあるから、それで異存はないと思う。あとの預貯金は相続税がかかるから3人で分けよう。」

と提案した。

和子

「私はその提案に納得することはできないわ。父が倒れて入院した時も、家で療養していた時も、私は仕事を休んでまで父に付き添い、家では看護した。その分を考慮してほしい。」

次郎

「兄貴は、何にもしていないのに、4500万円以上する実家の土地建物をとろうなんて虫が良すぎる。」

太郎

「次郎だっておやじの世話なんかしていないだろ。」

お茶とお菓子を運んできた次郎の妻が「あの~」と声を出した。

次郎の妻  「お義父さんが入院されたとき、私も付き添いました。自宅で療養されていた時、私も和子さんと交代でお世話しました。私にも何らかの遺産はもらえるんじゃないでしょうか?」

次郎

「そうだ、女房にだって遺産をもらう権利がある。

それに、兄貴は東京でマンションを買う時に親父から1000万円出してもらってるだろ。それってどうなるんだ。」

太郎の妻

「マンションは、夫が全額ローンを組んで、今も支払っています。

お義父さんに1000万円もらったなんてきいたことありませんよ。」

次郎

「いや、自分は親父から何回も聞いている。兄貴の息子が大学へ入る時入学金も出してやったと親父は言っていた。」

和子

「私もお父さんから何回もきいているわ。

それに、私は高卒後看護師養成の専門学校に3年間行かせてもらっただけなのに、太郎兄さんは東京の私立大学の大学院まで計6年間も行かせてもらった。

太郎への仕送りが大変だと、母は、よく私にグチをこぼしていた。

次郎兄さんだって東京の私立大学へ行かせてもらっている。そのことも考えて、公平になるようにしてほしい。」

次郎

「本当に不公平だ。俺は東京の大学を出ているが、アルバイトをして学費や生活費にあててきた。そのため成績が悪くていい会社に勤められなかった。結局地元に帰り、小企業に勤めて給料も高くない。兄貴は一流会社に勤めて給料も高い。兄弟は平等にしなきゃいけないよね。」

和子の夫

「あのー、私が口を出すのもなんですが、生命保険金というのは、確か遺産ではないと解釈されていると勉強したことがあるんですが。生命保険金を除いた遺産を平等に分けて、さらに、妻が看護した分と、安い専門学校をたった3年間行かせてもらっただけということを考慮してもらえませんか。」

太郎の嫁

「主人は、定年退職したら、必ず実家に戻る、ということを義父と約束していて、私もそのつもりでした。そのため、東京のマンションは、2DKの狭いマンションです。そこで、親子4人細々と暮らしてきたのです。

田中家の跡継ぎは、やはり長男である主人です。

あまりにも遠いからお父さんの病院へは2度しか行けませんでしたが、お父さんを思う気持ちは、長男である主人が一番強いのです。私も、主人が定年退職したら、実家に戻り、お父さんの世話をするつもりでした。」

太郎

「そうだ!俺は小さいときから田中家の跡継ぎはお前だと父や祖父母から言われて育ってきたんだ。

弟や妹は、長男のいうことをきくのが当然じゃないか。俺が全部取ろうとしているんじゃない。60坪の土地は次郎、生命保険金は和子、預貯金は平等に分けようと言っているんだ!」

次郎・和子

「でも~、それじゃ不公平だ!」

 

(教訓1)

この件は、よくあるケースです。愛人の子が出てくるなんてことがなくても、兄弟姉妹は親の愛を奪い合うライバルです。相続人が2人以上いれば、争いは勃発します。

この争いを起こさせないために、遺言を作成してもらっておくのです。あなたのお父さんやお母さんは「遺言適齢期」ではありませんか?

(教訓2)

民法の相続法は兄弟姉妹の相続分は平等と定めています。長男がアプリオリに優遇されることはありません。長男ご夫婦はまず考え方を改める必要があります。家制度も、敗戦した昭和22年5月3日(日本国憲法の施行)に廃止されています。◯◯家の跡継ぎという考え方は大日本帝国憲法下のものなのです。

(教訓3)

長男が、マンションを買うときに1000万円を父から贈与されていると、それは「特別受益」ということになります。

民法は、「父が亡くなった時点で残っている遺産に、特別受益の金額を加えて、それを平等に分ける計算をし、長男は平等に分けた金額から生前贈与を受けた金額を差し引いた金額だけがもらえる」という考え方をとっています。

つまり、できる限り相続人間の平等を図ろうとしているのです。

但し、特別受益があるかどうかは、それを主張する二男や長女に立証責任があります。仮に長男が「そんなものはもらっていない。」と否定すると、その立証は、結構難しいということがありますので、注意が必要です。

(教訓4)

教育にかけてもらったお金が兄弟姉妹で異なるということは、長男や二男の「特別受益」として算定できるかも問題となります。

今から約30年も前の学費や生活費の仕送り額がいくらであったのか、その差はいくらであるか、を算定するのは困難を伴います。しかも、その差額を現在の貨幣価値に直さなければいけません。二男はアルバイトをしてどのくらい稼いでいたかの立証をする必要があります。

(教訓5)

「特別寄与分」父親の付添いや療養看護をしたということが、特別寄与分になるかが問題になります。

どのような付き添いや自宅での看護であったかを長女や次男の妻は立証しなければなりません。

しかも、それらを無償で行ったものでなくてはなりません。いくらかずつ対価をもらっていると清算済みとなってしまいます。

また、その付き添いや看護が、父の財産の維持または増加に特別寄与している必要があります。

「除斥期間」2019年7月1日以降に被相続人が亡くなったケースでは、特別寄与料の支払請求は、相続の開始および相続人を知った時から6ヶ月、または、相続開始時から1年を経過すると、できなくなってしまいますので、要注意です。

(新民法 1050条2項 ただし書き)

(教訓6)

民法が改正される前までは、法定相続人以外の嫁などには特別寄与分が認められませんでした。しかし、2019年7月1日以降に被相続人がなくなったケースでは、嫁にも特別寄与分が認められるようになります。

(教訓7)

生命保険金は、相続財産ではなく、生命保険契約に基づいて支払われる金銭だと解釈されています。

相続税法では、「みなし相続財産」とされていて、生命保険金の額から(500万円×法定相続人数)を差し引いた金額が課税対象になります。

和子さんの夫の言い分が正しいのです。