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現代ビジネスに遺産相続の記事が掲載されました(2020.9.6)

現代ビジネスに記事が掲載されました(2020.9.6)
~「3000万の実家はもらう」長男様の一言に兄弟が激怒!壮絶な遺産争いへ…~

争いのきっかけは長男の一言

 「実家の土地建物は俺がもらうから」

 長男のこの一言がきっかけで、三兄弟は父親の遺産をめぐり血みどろの争いを繰り広げてしまいました…。いったい何があったのでしょう? 
 安藤義幸さん(仮名・享年82歳)が都内の自宅で亡くなったのは、5年前のことでした。奥さんの美恵子さんは既に亡くなっていて、残された家族は3人の子どもたちだけです。葬儀は彼らとその配偶者、親族だけが参加し、ひっそりと行われました。

【写真】ある高級有料老人ホームに一緒に入居した夫婦が「大後悔」した理由

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【登場人物紹介】 ※年齢は当時のもの
安藤義幸(享年82歳)・・・かつては大手企業で部長職を務めた。
定年退職後は夫婦2人で悠々自適の生活を送っていたが、妻が亡くなってからは自宅で一人暮らし。

安藤美恵子(享年75歳)・・・義幸の妻。
癌ですでに他界している。

安藤幸一(54歳)・・・安藤家の長男。
都内の某メーカー勤務。都内のマンションで妻、2人の息子と生活している。

安藤信二(50歳)・・・安藤家の次男。
都内の信用金庫に勤めている。結婚後は妻と都内で二人暮らし。

石田里美(48歳)・・・安藤家の長女。
短大を卒業後、看護師として働いていた。医師の夫と結婚し、3匹のネコと都内のマンションで暮らしている。
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 義幸さんが遺した財産は以下の通りです。

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実家の土地約60坪と建物    :3000万円
駐車場にしている別の土地30坪 :1500万円
預貯金 :500万円
生命保険 :1500万円
合計 :6500万円
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 いくら探しても、遺言書は見つかりませんでした。その結果、兄弟は泥沼の遺産争いに陥ります。

三兄弟の激しい罵り合い

 四十九日に兄弟3人が実家に集まりました。口火を切ったのは、長男の幸一です。

 幸一
「俺は長男だから、この実家と土地を相続させてもらう。信二は、駐車場にしている30坪の土地がいいんじゃないか。里美は生命保険金の受取人になっているから、1500万円で異存はないだろ。葬儀代を引いて、残りの預貯金は3人で等分しよう」

 これに対して猛反対したのが、妹の里美でした。

 里美
「そんな話、絶対に納得できない! お父さんが倒れて入院した時も、家で療養していた時も、仕事を休んで付き添ったのは私じゃない。『看護師のお前は看護のプロだから任せるよ』って何もせずにいた兄さんより取り分が少ないなんて、私は認めないから」

 次男の信二も反発します。

 信二
「何にもしてない兄貴が、3000万円の実家を相続しようなんて虫が良すぎるだろ! それに良子(=信二の妻)だって里美と交代で親父の看病したんだから、そこも考慮してもらいたいね」

 里美
「だいたい兄さんは、結婚した後住むマンションの頭金だってお父さんに出してもらったじゃない! あの時の1000万円だってチャラにはさせないから」

 幸一
「ローンは自分で払ってるんだから関係ないだろ。もう終わった話を蒸し返すな」

 信二
「それに息子が大学へ入るときの入学金だって、親父に出してもらったじゃないか」

 生前のことを持ち出し始めると、遺産相続は途端に難しくなる傾向があります。

 里美
「それに学費の差も考えてくれないと認めないから。高校を卒業した後、私は実家から看護師養成の短大に通い続けたのに、幸一兄さんは、私立大学の大学院まで行かせてもらって一人暮らししてたじゃない。『仕送りが大変だ』って、お母さんよく私にグチをこぼしてたんだから…。信二兄さんだって4年間私立の大学に通ったんだから、そこの差額を考えて、公平に分配してよね」

 信二
「文句は、俺じゃなくて実家を相続する兄貴に言えよ! それにこっちだって、あの頃は兄貴の学費と生活費であまり余裕がなかったから、俺は学費の一部を自分でアルバイトして払っていたんだ。だから大学の成績が悪くていい会社に就職できずに…。兄貴は一流企業に勤めてて給料も高いんだし、里美の旦那は医者で稼いでるんだから、生涯年収の差も考慮してもらいたいね」

 幸一
「ふざけるな! そんな言い分が通用するはずがない…。俺は『定年退職したら必ず実家に戻って面倒を見る』って親父と約束してたんだ…。マンションの頭金を出してもらえたのだって、そういう理由なんだよ。第一、この家の跡継ぎは長男の俺だろ? 小さいときから『安藤家の跡継ぎはお前だ』って言われてきた俺が、実家を相続できないなんて、そんなおかしな話があってたまるか!」

 信二
「いつの時代だと思ってるんだ! そっちの理屈こそ通るわけないだろ」

 幸一
「うるさい! 弟や妹は、長男の言うことを聞くのが当然じゃないか。それに俺が全部相続するなんて言ってないだろ? 信二には駐車場の土地をやるし、里美は生命保険金1500万円が手に入るんだから、十分じゃないか」

 里美
「偉そうに何言ってんの!? 私は絶対に認めないから」

 こうして兄弟間の交渉は決裂し、互いに弁護士を立てて相続争いが繰り広げられたのです。

 当初は次男・信二と長女・里美が協力し、長男の幸一と争う姿勢を見せていました。しかし年収や学費に関する問題で決裂し、最後は三つ巴の争いになってしまいました。

 1年近くかかった調停の結果、実家と駐車場の土地を売却して現金化し、合計額を3人で等分することになりました。3人とも互いに罵り合うことに疲れて、シンプルな解決策を選びました。

 平等に遺産を分配できたものの、この一件以来、三兄弟は絶縁状態です。調停の過程で、互いに自分に有利な事実を挙げるあまり、忘れられていた過去の遺恨が再燃してしまいました。

 かかった学費や仕送り代はもちろん、調停の終盤には里美さんが成人式に着た振袖のレンタル代や、幸一さんの子どもへのお年玉までやり玉に挙げられました。昔のことをここまで細かく言われてしまうと、関係修復は難しいでしょう。

【ここまでこじれてしまった理由】

 私は次男の信二さんの代理人でしたが、引き受けた当初から「このようなケースは丸く収めるのが難しい」と感じていました。そもそも、この長男の理屈に無理があります。

 現在でも時々こういった方に遭遇するのですが、現在の民法では、生まれた順番にかかわらず、兄弟姉妹の相続分は平等と決められています。たとえ跡取りの長男であったとしても、実家の土地建物を優先的に相続できるわけではありません。かつての「家制度」は、現在の憲法が施行された1947年に消滅しており、「安藤家の跡継ぎ」という考え方は戦前のものです。

 ここまで時代錯誤な長男は珍しいですが、このように思っている方がいれば、考えを変える必要があります。実際の調停では、やはり長男の言い分は通りませんでした。

 一方、信二さんが言い張ったアルバイト代や生涯年収の補填、長女が主張した学費の差額なども立証が難しく、諦めざるをえませんでした。

 教育にかかったお金が兄弟姉妹で異なる場合、親から生前に利益を受ける「特別受益」として算定できるかが問題となります。認められた場合は、法律で決められているよりも多くの割合をもらう権利を得るのです。

 しかし、約30年も前の学費や仕送り額がいくらであったのか、算定するのは困難です。しかも、その差額を現在の貨幣価値に直して計算しなければいけません。この場合、「特別受益があった」と主張する信二さん・長女の側に立証責任がありますが、そんなに古い記録は残っていなかったため、泣く泣く断念しました。

 義幸さんの介護をしていた信二さんの妻・良子さんと長女は、「特別寄与分」が認められる可能性があります。付き添いや看護を行ったことが証明できる場合、「特別寄与料」を請求できます。

 ただし請求するための条件の一つに「無償であること」が挙げられます。すでに対価を受け取ってしまった場合、特別寄与分は認められないので、注意が必要です。

 父親が亡くなるまでは、普通の三人兄弟だったそうです。たとえそのような兄弟であっても、相続一つで絶縁してしまう可能性があります。このような事態を回避できるのが、遺言書です。

 しかし遺言書に「長男にすべて相続させる」と書かれていたとしても、次男と長女は「法定遺留分」として一定割合の財産を相続できるため、今回と同じような争いの火種になります。専門家の力を借りつつ、ご家族と相談しながら遺言書を作成しておくことをおすすめします。

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※登場された方のプライバシーに配慮し、実際の事例を一部変更、再構成しています。
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北村 明美(弁護士)